先日(令和5年1月18日)、厚生労働省の諮問機関「労働政策審議会」の分科会によってR8年度より障害者雇用の法定雇用率が2.7%に引き上げられることが決定されました。

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法定雇用率が変わる…?
はて?なんのために?
そもそも障害者雇用ってなんだろう?

そんな疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?

本記事では、障害者雇用についての説明から、元になる法律や制度について、そして企業における障害者雇用の意義について解説いたします。

障害者雇用とは?

障害者雇用とは、障害を持つ方が希望や能力、適性を十分に活かしながら、障害がない方と同じように社会で活躍することが当たり前になることを目指し定められた雇用制度のことです。

企業へのインパクト

厚生労働省は障害者雇用を促進するための様々な対策を行っており、企業には一定の義務と達成できない場合の納付金が課せられるものの、積極的に雇用を進めた場合は様々な助成も行っています。

そのため、ルールが先立つものの、社会的意義や戦力の多様化など企業を取り巻く働き方の多様性を実現するための機会であるとも言えます。

障害者へのインパクト

障害者にとっては、職業訓練や職業紹介、職場適応援助等の職業リハビリテーションの機会を提供し、それぞれの障害特性に応じた支援や職場マッチングの機会が提供されるよう配慮がされています。

そのため、障害者雇用を利用することで、一般の雇用よりも条件や環境面においてより特性にあった就労が可能となります。

障害者雇用は何にもとづいて制定されている?

障害者雇用の核となる法律は「障害者雇用促進法」です。正式名称は「障害者の雇用の促進等に関する法律」といいます。1960年に制定された「身体障害者雇用促進法」が改定された際に、この名称に変わりました。

この法律の目的は下記のように書かれています。

(目的)第一条
この法律は、障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会及び待遇の確保並びに障害者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするための措置、職業リハビリテーションの措置その他障害者がその能力に適合する職業に就くこと等を通じてその職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もつて障害者の職業の安定を図ることを目的とする。

つまりは、すべての国民が障害の有無に関わらず個人として尊重されて別け隔てなく共生できる社会を実現するために障害者雇用に関しての事業主の責務や制度、措置に関しての取り決めを行っている法律になります。

障害者雇用における障害者とは?

障害者雇用促進法では、以下のように定義されています。

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。第六号において同じ。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう。

この文章を解釈すると「職業生活に制限をうけたり、営むことが困難である」と認められている必要があります。つまりこれを満たすためには実質的に障害者手帳を保持する必要があり、結果、障害者手帳をお持ちの方のみが障害者雇用の制度を利用することができるということになります。

ただし、障害者手帳を保持していなくても、就労移行支援事業所や定着支援事業、ハローワーク、障害者職業センターなどの社会サービスを利用することはできます。

当事者にとっての障害者雇用と一般雇用との違いは?

一般雇用と障害者雇用の違いはなんでしょうか?一番わかりやすい点としては、障害への配慮がされるという点かと思います。

配慮というメリット

一般雇用では理解されづらい特性が、障害者雇用においては環境面においてもコミュニケーション面においても当然のこととして理解されるので、就労が困難だった方にも多くの機会が提供されることとなります。

しかしながら、現実的にどのような配慮がされるのか?という点については、非常に企業によって質が分かれるところでもあります。その点については、別の記事で解説を行いたいと思います。

給与、キャリアプランというデメリット

給与面に関しては、一般雇用と比べても差があるのも現実です。多くの企業が、最低賃金で給与設定を行っている場合が多くあります。また、現状キャリアプランも描きにくいということもありますが、障害年金と合わせて取得することで安定した生活基盤を手にいれることも可能となります。

法定雇用率とは?

冒頭にでてきた法定雇用率とは、雇用の機会を均等にするために一定数以上の規模の事業主に定められた雇用義務の割合のことです。該当する事業主は、従業員に占める身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合を「法定雇用率」以上にする義務があります。

このことは、障害者雇用促進法第43条に記載されています。


法定雇用率について 厚生労働省のサイトより

なぜ、法定雇用率が変わるのか?

先程も述べたように、障害者雇用では、誰もが地域や社会の一員として生活できる「共生社会」実現が基本理念となっています。そのため、その実現にむけてどんどん割合を増やしていく必要があるわけですが、現実的には段階的な導入となっています。そのため、障害者雇用促進法では「少なくとも5年に1度は法定雇用率を見直すこと」が定められ、少しずつ法定雇用率をアップする方針となっています。

ところが、この法定雇用率も、現状の障害者の定義(障害者手帳の保有者数)によって上限が決まってしまうため、今後障害者の定義自体も変化していくことも考えられます。

障害者雇用の意義とは?

では、企業にとって障害者雇用を行うことはどのような意義があるのでしょうか?
大きな観点としては、以下の3つの視点があるように思います。

法令遵守と社会貢献

まず、第一には法令を守るという観点です。企業が社会の中で決められたルールをしっかりと守っていきながら経済活動を行っていくことで、企業が置かれた地域自体の活性化につながり、かつ地域に住む様々な人が社会参加できる機会を作ることができます。地域には障害にまつわる様々な支援機関があり、様々な人が生活しています。障害者雇用を通じて、法令を守りつつ地域社会に貢献していくことは意義深い行為といえるのではないでしょうか?

活躍する人材の多様化

以前は、障害者というと特別な仕事を設けてしてやってもらうというイメージがありましたが、現在は、戦力として様々な観点から業務の創造が行われています。それはつまり、今までの「普通の仕事」という枠組みを超えて、新たな人材活用の機会としての障害者雇用が生まれてきているとも言えます。

共生社会の実現

最後に大事なことは、誰もが等しく生きる権利を実現する社会を実現するということです。人はそれぞれ、生まれや環境は違いますが、本来であれば障害の種類に関わらず、誰もが平等に働く機会があることが望ましいように思います。そんな中で障害者雇用は、その裾野を切り開くための重要な機会を提供してくれると言えるでしょう。

本来的な平等ということであれば、障害者雇用という枠組みすら不要になる社会を目指せることは理想ではありますが、まずその機会をつくるためのキッカケとしての障害者雇用は素晴らしい制度であると感じます。

まとめ

ここまで、障害者雇用とは?というテーマで解説を行ってきました。

私は、現在就労移行支援事業所に勤務していますが、以前よりも業務の選択肢や幅が広がっていることは実感しております。ですが一方で、まだまだ理解が追いついていない企業や担当者が多くいることも確かです。少しでも社会の理解が進むよう、この記事が参考になればなによりです。